貧乏な家庭でも僅かながら親が子供の与えた物はあります。おもちゃをねだっても買ってもらえませんが、もっぱら親戚のおばちゃんか稀に買い与えてくれます。子供に読み聞かれるような本も禄にありませんでしたが、図鑑は数冊ありました。但しシリーズすべてが揃っている訳ではありません。確か姉弟で3冊ずつの6冊だったと思います。しかし姉用の花の図鑑などには全然興味がありませんでした。興味があったのは動物の図鑑、昆虫の図鑑、人体の図鑑でした。シリーズ全部が揃っていればもっと知識が豊富になったとは思いますが、貧乏家庭ではこの程度しか買えないのでした。しかし何冊もいろいろな本が無かった事は良い方面もあります。同じ本を繰り返し見続けるので知識がより深くなるのです。ただ動物は日頃は犬や猫程度で他の動物は動物園に行かなければ見る事は出来ません。しかし昆虫は意外と身近に存在していました。故に昆虫の図鑑は一番見る頻度が高くなりました。当時は都内でも結構昆虫はいろいろ見られました。ハエや蚊やゴキブリは当然ですが、夏場はカブトムシは小学校にいましたが、家でもアブラゼミ、ツクツクホウシ、ゴマダラカミキリ、モンシロチョウ、あしながバチ、てんとう虫、コガネムシ、シオカラトンボと数えきれないほど昆虫がいて、図鑑で何回も調べました。秋にもアキアカネやコオロギなども庭で見られ、変わったものの中には鬼蜘蛛やナナフシなどもいました。嫌いな虫もいてミノムシ(みの蛾の幼虫)になる前の毛虫はさわると実に痛かった記憶が鮮明に残っています。ただ生息場所が限定している昆虫がほとんどですの、都内では絶対に見られない種類の昆虫もまだまだ沢山ありました。
 ある夏休みの時期です。我が家で過去にない長距離の旅行が計画されました。場所は栃木県なので一般的に考えればそれほど東京からは遠くはありません。今でも避暑地で有名な那須高原ですが、一応電車では白河駅で下車したので福島県です。過去に行った一番遠い場所でした。実は宿泊地は当時日曜に無理やり連れて行かれていた教会と同じ敷地の英語学校の保養所なのでした。要するに宿泊費は掛からず、白河駅から保養所までもジープで家族全員連れて行ってもらったのであまりお金を掻けずに済んだ旅行だったと思われます。この時は電車お宅の時期だったので白河まで行った急行列車が寝台車の車両を使っていたのが特に印象的でしたが、那須の保養所ではほとんで観光の記憶が無くもっぱら昆虫採集に没頭していました。同じ教会の日曜学校で顔を合わせていたK川さんの息子のIお君と一緒に虫かごいっぱいに昆虫を取りまくりました。特にくわがた虫は都内では見られない昆虫でオスは鍬が見事で中々とれないので嬉しい限りでした。全部の昆虫が都内で見られるものと別の種類でしたので最高の1日になりました。そして夜になると明かりを目指して昆虫が集まってきます。夜も昆虫採集には絶好の時間帯なのです。気持ち悪い蛾が多い中、コガネムシ系の昆虫が部屋の照明めがけて飛んでいました。メスのクワガタあたりかなと思いましたが一応手で掴んで取るのに成功しました。しかしその時です指先に激痛が走ったのです。完全に虫に噛まれた痛さでした。この痛さは過去に経験した事の無い痛さでしたので思わず手を思いっきり振って嚙みついた虫を払い取りました。そしてこの虫は遠心力で部屋の隅に投げ飛ばされていきました。しかし激痛が全然治まらなかったのです。ここで初めて自分の指先を確認しました。虫は離れたのに変だなと思いましたが、痛さが残っていた理由がわかると気持ち悪さに倒れそうになりました。痛さの残っていた指先にはカミキリムシの頭部分が噛みついて残ったままだったのです。遠心力で飛ばされたのは頭から先の胴体部分だけだったのです。首と胴体だ力いっぱいの遠心力で分離してしまったわけです。生首だけが指先に残っていた光景に恐ろしさを感じたのでした。すぐに机のヘリに指先をなすりつけて生首が外れ漸く冷静に戻りました。あの昆虫はコガネムシの系列の昆虫でしたが家にいるゴマダラカミキリとは別の種類の少々大型のカミキリムシなのでした。手で掴めば噛みつかれて当然の虫なのでした。生きて入れは持って帰れたのに首が分離した昆虫は流石に気持ち悪くていただけません。残念ながな同じカミキリムシは他に見かけませんでしたのでこの種類の採集は諦めました。この生首はトラウマになりました。その後家の近くで昆虫を見かけても決して手で昆虫を捕まえる事をやめました。昔は手で平気で蝉を捕まえていましたが、今では生きていても蝉も気持ち悪くて素手で捕まえる事が出来なくなりました!

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 向山庭園の池です。噴水口でしょうか、池にリング状の波が全面に広がっていました。